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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)94号 判決 1995年11月21日

大阪府堺市鉄砲町1番地

原告

ダイセル化学工業株式会社

同代表者代表取締役

児島章郎

同訴訟代理人弁理士

越場隆

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

清川佑二

同指定代理人

臼田保伸

今野朗

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成4年審判第2415号事件について平成5年6月1日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年2月22日名称を「光学式情報記録担体」とする発明(以下「本願発明」という。)について、特許出願(昭和59年特許願第32230号)をしたところ、平成3年12月17日拒絶査定を受けたので、平成4年2月20日審判を請求し、平成4年審判第2415号事件として審理され、同年3月21日手続補正(以下「本件手続補正」という。)をしたが、平成5年6月1日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同月28日原告に送達された。

2  特許請求の範囲1項に記載された発明

ポリメチルメタアクリレートを除く透明なプラスチックの基板と、この基板上に設けられた高密度情報記録層と、基板と高密度情報記録層との間に設けられた薄膜層とを有する光学式情報記録担体において、基板と高密度情報記録層との間に設けられた薄膜層が、厚さが100~2,000Åの無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)の薄膜層であることを特徴とする光学式情報記録担体(別紙図面1参照。なお、上記特許請求の範囲1項の記載中の「密度情報記録層」は「高密度情報記録層」の誤記である。)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)<1>  昭和57年特許出願公開第88537号公報(以下「引用例」という。別紙図面2参照)には、透明なプラスチック基板(11、12)と、この基板上に設けられた光記録膜(14)と、基板と光記録膜との間に設けられた無機質膜(15)とを有する光ディスクにおいて、基板と光記録膜との間に設けられた無機質膜が、厚さが500~10,000Åのガラスの薄膜によって形成された光ディスクが記載されている。

<2>  本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の光ディスクが光学式情報記録担体であることは明らかであり、また、引用例における光記録膜(14)、無機質膜(15)は、それぞれ本願発明における高密度情報記録層、薄膜層に相当するものと認められる。

そうすると、両者は、透明なプラスチックの基板と、この基板上に設けられた高密度情報記録層と、基板と高密度情報記録層との間に設けられた薄膜層とを有する光学式情報記録担体において、基板と高密度情報記録層との間に設けられた薄膜層が、無機質のガラスの薄膜層である光学式情報記録担体である点で一致し、以下の点で一応相違する。

イ.本願発明は、透明なプラスチック材料の中からポリメチルメタアクリレートを除いているのに対し、引用例記載の発明は、そのような限定を行っていない点。

ロ.本願発明は、無機質のガラスの薄膜層として、無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)の薄膜層を用いているのに対し、引用例記載の発明は、そのような限定を行っていない点。

ハ.薄膜層の厚さを、本願発明は、100~2,000Åとしているのに対し、引用例記載の発明は、500~10,000Åとしている点。

<3>  以下、上記の各相違点について検討する。

イ.相違点イ.について

引用例記載の発明は、少なくとも周知のプラスチック材料からなる基板すべてがその対象となっているものと認められる。また、本願発明のように、その中から特にポリメチルメタアクリレートのみを除外する点に技術的意義は認められない。

よって、この点の相違は格別なものではない。

ロ.相違点ロ.について

引用例記載の発明においては、無機質膜として情報記録層の酸化劣化を防止し得る任意の無機ガラス薄膜層を採用できることは明らかであり、また、本願明細書に「本発明の無機ガラスはこれのみに限定されるものではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できるものであればよい」(8頁20行ないし9頁2行)旨記載されていることからみて、無機質のガラス薄膜層として無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)薄膜層を用いることに格別の困難性があるとは認められない。

よって、この点の相違は、当業者が必要に応じて容易に実施し得た事項にすぎない。

ハ.相違点ハ.について

引用例においても、薄膜層の厚さを、記録層の保護の役目及び記録エネルギ即ちレーザー光の吸収との兼合いによって決定していることはその記載より明らかであり、さらに、両者の厚さは500~2,000Åの範囲において重複していることからみて、この点の相違は格別なものとは認められない。

<4>  また、その作用効果において、本願発明が引用例記載の発明と比較して格別顕著なものと認めることもできない。

<5>  したがって、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の認定判断のうち、(1)は争う、本願発明の要旨は、平成4年3月21日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲1項の必須要件項及び2項ないし5項の実施態様項記載のとおりである、(2)<1>、<2>は認める、<3>イ.ロ.の判断は争うが、ハ.の判断は認める、<4>、<5>は争う。

審決は、相違点イ.及びロ.に対する判断を誤った違法があり、かっ、特許請求の範囲1項の必須要件項について進歩性がないと判断した場合には2項ないし5項の実施態様項についても判断の対象としなければならなかったにもかかわらず、これをしなかった審理不尽の違法があり、取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点イ.に対する判断の誤り)

審決は、周知の透明なプラスチック材料の中からポリメチルメタアクリレートのみを除外する点に技術的な意義は認められないので、この点の相違は格別なものではないと判断しているが、この判断は誤りである。

すなわち、本願明細書の別紙第1表(16頁)に示したように比較例1ないし3は、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)のディスク基板であるが、これらのディスクの吸水変化率は0.4~0.85重量%であって、実施例2及び3のポリカーボネート(PC)のディスク基板の吸水変化率0.02~0.08重量%に比較すると極端に悪く、C/N変化率もポリカーボネートディスク基板の場合の実施例2及び3の値90~100%に比較して20~50%と極端に悪い。

事実、光学式情報記録担体の基板としてポリメチルメタアクリレートを用いているものはない。ポリメチルメタアクリレートはビデオ情報を記録した直径30cmのいわゆるビデオディスクで用いられているが、これはプラスチック基板に凹凸を直接成形して記録した再生専用の光ディスクであって、高密度情報記録層を有しないので、本願発明で定義する光学式情報記録担体ではなく、吸湿に起因する高密度情報記録層の劣化の問題もない。

本願発明が対象とする光学式情報記録担体の用途の1つである画像ファイルの基板材料においてポリメチルメタアクリレートすなわちアクリル樹脂の吸湿性が問題になっている事実は、「日経エレクトロニクス」(1982年6月7日発行、甲第5号証)に「富士通-旭化成-オリンパスのグループの試作機もアクリル樹脂のエア・サンドイッチ構造である。…この構造では、アクリル樹脂からの水分や、空気層中の水分による…はがれが問題になることがある。」(149頁下から8行ないし1行)と記載されており、ポリメチルメタアクリレートは基板材料として問題であることは知られていた。

さらに、ポリメチルメタアクリレートすなわちアクリル樹脂が本願発明の好ましい実施例の対象である光磁気記録ディスクの基板材料の候補から全く外されたことは、「日経エレクトロニクス」(1986年12月29日発行、甲第6号証)にアクリル樹脂について全く触れられていない(69頁最右欄下から4行ないし71頁最左欄下から9行まで)点からも分かる。ここに記載のプラスチック基板材料は、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、複合樹脂、エポキシ樹脂のみである。

したがって、透明なプラスチック材料の中からポリメチルメタアクリレートを除いた点には、技術的な意義があり、相違点イ.について、この点の相違は格別なものではないとした審決の判断は、誤りである。

被告は、この種の光学式情報記録担体の基板として、ポリカーボネートを含む種々の透明なプラスチックの基板がその対象となっていることは周知であると主張し、このこと自体は、原告も認めるものであり、本願明細書にも「上記基板1はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂等の任意の透明プラスチックで作ることができる」(7頁16行ないし18行)と記載されている。すなわち、被告が周知例としてあげている乙第1号証の明細書に記載の「ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン」の中で、ボリメチルペンテン、ポリプロピレン以外は、本願明細書に記載されている。

しかし、ポリスチレン及びポリ塩化ビニルが光ディスク基板として使用できないことは、前記甲第5号証に記載されている(144頁第2パラグラフ)。また、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂やポリメチルペンテンのような結晶性樹脂は、複屈折が大きいため光ディスク基板としては使用できないことは周知のことである。

被告の主張するように、周知の透明なプラスチック基板から任意のものを選択することができたとしても、選択した基板が実用可能か否かは明らかではないので、「できるのは明らかである」とする主張は、誤りである。事実、光磁気ディスクでは、基板として満足できるものがないと考えられていたことは、前記甲第6号証の記載からも分かる(67頁左欄下から10行ないし6行)。

次に、被告は、本願明細書には、透明なプラスチック基板として、ポリメチルメタアクリレートを用いた場合と、ポリカーボネートを用いた場合の実験データが記載されているのみであり、ポリメチルメタアクリレート及びポリカーボネートを除く透明なプラスチックを用いた場合の実験データのない本願明細書の記載から、ポリメチルメタアクリレートを除くすべての透明なプラスチック基板を本願発明の対象とすることに技術的な意義が認められないと主張するが、その意味するところが必ずしも明確ではない。

被告のこの主張は、本願明細書の記載では実験データが足りないから本願発明は実施例で支持されていないということなのか、ポリメチルメタアクリレート以外の透明なプラスチックの中にも除くべきものがあるはずであるから(または、あるかも知れないから)ポリメチルメタアクリレートだけを除く点に技術的意義は認められないということなのか、その他のことを意味しているのか不明であるが、いずれにしても、これらのことは特許法36条違反の問題であって、審判手続で指摘すべき問題である。

実際問題として、無数に存在する透明なプラスチックのすべてを具体的に記載することも、すべてについてデータを採ることも不可能である。甲第8号証には、代表的な透明プラスチックが記載されている(65頁図2.44)が、この他にも無数の透明プラスチックが存在する。これら無数のプラスチック材料の中のどの範囲についてデータが必要であるかについて、審判官としては、特許法36条違反と指摘して反論・釈明する機会を与える義務があり、この指摘をしていない以上、被告の上記主張は、理由がない。

なお、「ポリメチルメタアクリレートを除く」という定義でよしとするのが先進国における当該分野の通常の審査基準であることは、本願の対応米国出願及び欧州出願が「ポリメチルメタアクリレートを除く」という定義で特許されたことからも明らかである(甲第9号証、同第10号証)。

(2)  取消事由2(相違点ロ.に対する判断の誤り)

審決は、引用例記載の発明において、無機質膜として任意の無機ガラス薄膜層を採用できることは明らかであり、また、本願明細書の記載からして、本願発明において、無機質のガラス薄膜層として無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)薄膜層を用いることに格別の困難性があるとは認められないとしたが、この判断も誤りであり、または判断の根拠を欠くものである。

まず、審決で引用された本願明細書8頁20行ないし9頁2行の記載は、その前後関係から判断すれば、「本発明の無機ガラスはコーニング社のコード番号7059として市販の無アルカリガラスにのみ限定されるものではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できる無アルカリガラスであればよい」という内容であることは明らかである。

次に、引用例の特許請求の範囲4項には、無機質膜がガラスの薄膜で形成できることを記載しているが、このガラスとして無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)を用いることについてば、記載も示唆もない。

また、引用例では、無機質膜としてガラスとともにSiO2、SiO、TiO2、CeO2、In2O2及びZnOが並列して例示されており、ガラスに格別な認識はなく、まして、無アルカリガラス(SiO2単独のガラスを除く)の作用効果に関する認識は全くない。しかも、引用例には、無機質膜を実際に使って実験した実施例の記載もない。

一方、本願明細書の実施例2と比較例4、5とを対比すると明らかなように、中間保護層として引用例に記載のTiO2及びTiO2を用いた場合(比較例4、5)に比較して本願発明の無アルカリガラスを用いた場合では、同じポリカーボネート(PC)のディスク基板を用いた場合でも、吸水変化率は約1/3倍に低下し、C/N変化率は約3割向上する。したがって、本願発明と引用例記載の発明では、作用効果において顕著な差がある。

また、本願発明の好ましい実施例の対象である光磁気記録ディスクでは、保護膜の選択がいかに重要であり、かつ、その選択が容易でないかは、本出願日から約3年後に発行された前掲「日経エレクトロニクス」(1986年12月29日発行)の記載(69頁最右欄下から4行ないし70頁12行まで)からも理解できる。

したがって、相違点ロ.について、この点の相違は、当業者が必要に応じて容易に実施し得た事項にすぎないとした審決の判断は、誤りである。

被告は、本願明細書の「無機ガラスとしては特に無アルカリガラスが好ましい。」との記載は、無アルカリガラスが何故好ましいのか明確でないと主張するが、その理由が明瞭でない。実施例としてコーニング社のコード番号7059のガラスのデータしかないので、明細書の記載が不備であるとの意味であれば、それは基本的に審決で触れられていない特許法36条の問題であり、発明の作用効果が把握し得ないという意味であれば、本願明細書の第1表に示した実施例1ないし3と比較例1ないし5との比較で作用効果は充分に把握できるので、この主張には根拠がない。いずれにせよ、他の無機ガラスや前記コーニング社のガラス以外の無アルカリガラスの比較例がなければ、発明の作用効果が充分に把握できないとするのであれば、これは特許法36条の問題であって、審判手続の段階で出願人に釈明を求めるか、データの提出を求めるべきである。

また、被告の主張する無機ガラスの一種として無アルカリガラス自体は周知のガラスであり、引用例記載の発明においても、無機質膜として予定しているガラスの中には、前記周知の無アルカリガラスも含まれるということ自体は争わないが、このことと、「したがって、引用例記載の発明において、無機質膜用のガラスとして、周知の無アルカリガラスを選択することに格別の困難性がない」とする判断の間には、理論の飛躍があり、根拠がない。

まず、上記の「選択することに格別の困難性がない」とする判断をするのであれば、審判段階で出願人に釈明する機会が少なくとも一回は与えられてしかるべきである。

次に、この「選択することに格別の困難性がない」とする判断は、当該分野の審査基準に基づくべきである。この審査基準を示すために、本出願日(昭和59年2月22日)の約4年前である昭和55年1月1日から平成5年10月1日までの、本願発明の対象とする「光学式情報記録担体」が分類される特許分類51,224件を検索した(甲第11号証、第12号証)。そして、本願発明と類似すると思われる発明として7件の公告公報を見出した(甲第13号証の1ないし7)ので、これらの発明と本願発明との目的、構成を対比してみた(甲第14号証)。その結果、これらの発明と対比してみて、本願の特許請求の範囲1項が構成要件の限定に不足するとすることはできないこと、本願発明が当該技術分野の審査基準に照らしていわゆる進歩性がないとする根拠もないことが示された。

(3)  取消事由3(審理不尽の違法)

本願に関しては、昭和50年法律第46号で改正された多項制に関する「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」(特許庁・弁理士会昭和50年10月発行、甲第7号証、以下「運用基準」という。)が適用される。この運用基準の「発明の特許要件の審査にあたっての実施態様項の取り扱い」(特-36頁、Ⅳの3)によると、「発明の特許要件についての審査においては、その発明の必須要件項のほか、各実施態様項についても拒絶理由の検討を行い、拒絶理由を有するすべての実施態様項について出願人にその旨を指摘することとし、これに対処する機会を与えることとする。」とされている。そして、この趣旨は、この運用基準の〔説明〕の項(特-36頁ないし38頁)に記載されており、昭和50年法律第46号の改正の趣旨がこの運用基準に記載の趣旨であることは、当時の工業所有権審議会の答申からも明らかである。

すなわち、昭和50年法律第46号で採用された多項制は、PCT加盟に際し、一発明に対して複数の請求項が記載できるようにしたものであり、この制度での実施態様項は必須要件項が削除された場合に必須要件項になり得るという性格を有しているから、実施態様項に限定された場合に拒絶理由が解消するか否かも審理の対象とする必要がある。

本願の特許請求の範囲1項の必須要件項に2項の実施態様項を加えた発明が、対応する欧州特許出願及び米国特許出願で特許・登録されているという事実及び日本で当該分野の類似発明が多数公告されているという事実は、本願の特許請求の範囲1項の必須要件項に2項ないし5項の実施態様項を加えた発明は、特許性のある発明であるということを示している。

このように、本願の特許請求の範囲1項の必須要件項について進歩性がないと判断した場合には、2項ないし5項の実施態様項についても順次審判の対象としなければならなかったにもかかわらず、これをしなかった審決には、審理不尽の違法がある。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認めるが、同4は争う。審決の認定判断は正当であり、原告の主張は理由がない。

2  原告は、本願発明の要旨は、本件手続補正書で補正された特許請求の範囲1項の必須要件項及び2項ないし5項の実施態様項記載のとおりである旨主張する。

しかしながら、特許出願において、当該発明の構成に欠くことができない事項は、必須要件項として記載しなければならないのに対し、実施態様項は、上記必須要件項を実施した態様に関する記載で任意的なものであり、発明の構成に欠くことができない事項またはその発明の他の実施態様を引用し、これを技術的に限定し具体化して記載される従属的なものにすぎない(昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条5項、同法施行規則24条の2、以下同じ)から、その発明の要旨を認定するには、発明の構成に欠くことのできない事項である必須要件項により把握すべきである。

そして、本願の特許請求の範囲のうち、1項が本願発明の構成に欠くことのできない事項である必須要件項に該当し、2項ないし5項は、1項を引用し、同項に記載された光学式情報記録担体を特定し、かつ具体化した同項の実施態様項であることは明らかである。

したがって、本願発明の要旨を、その特許請求の範囲1項に記載されたとおりのものと認定した審決に、誤りはない。

3(1)  取消事由1(相違点イ.に対する判断の誤り)について

この種の光学式情報記録担体の基板として、ポリカーボネートを含む種々の透明なプラスチックの基板がその対象となっていることは周知(例えば乙第1号証)であるので、引用例記載の発明においても、プラスチック基板として、ポリカーボネートを含む周知の透明なプラスチック基板から任意のものを選択することができるのは明らかである。

なお、本願明細書には、透明なプラスチック基板として、ポリメチルメタアクリレートを用いた場合と、ポリカーボネートを用いた場合の実験データが記載されているのみであり、ポリメチルメタアクリレート及びポリカーボネートを除く透明なプラスチックを用いた場合の実験データのない本願明細書の記載から、ポリメチルメタアクリレートを除くすべての透明なプラスチック基板を本願発明の対象とすることに技術的な意義が認められないのは当然のことである。

(2)  取消事由2(相違点ロ.に対する判断の誤り)について

本願明細書には、「無機ガラスとしては特に無アルカリガラスが好ましい。」(8頁15行ないし16行)旨記載され、また、実施例として、コーニング社のコード番号7059のガラスを用いた実験データが記載されているだけであって、それ以外の無機ガラスあるいは無アルカリガラスを用いた実験データは記載されていないので、本願発明において、無アルカリガラスが何故好ましいのかは必ずしも明確ではないが、無機ガラスの一種として無アルカリガラス自体は周知のガラスであり、引用例記載の発明においても、無機質膜として予定しているガラスの中には、前記周知の無アルカリガラスも含まれることは自明である。

したがって、引用例記載の発明において、無機質膜用のガラスとして、周知の無アルカリガラスを選択することに格別の困難性がないのは当然のことである。

なお、原告は、審決で引用された本願明細書8頁20行ないし9頁2行の記載は、その前後関係から判断すれば「本発明の無機ガラスはコーニング社のコード番号7059として市販の無アルカリガラスにのみ限定されるものではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できる無アルカリガラスであればよい」という内容である旨主張している。

しかしながら、本願の当初明細書(甲第2号証)における特許請求の範囲に記載された発明は、無機ガラスとして無アルカリガラスに限定するものではなかったし、また、本願明細書の「本発明の無機ガラスはこれにのみ限定されるものではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できるものであればよい。」(8頁20行ないし9頁2行)旨の記載は、その後修正されていないことからみて、この記載は、物理蒸着法で薄膜が形成できる無機ガラスであればよいことを意味するものであることは、明らかである。

したがって、この原告の主張は、容認できない。

(3)  取消事由3(審理不尽の違法)について

本願発明の要旨が、その特許請求の範囲1項に記載されたとおりのものであることは、前記2項主張のとおりであり、このことは、本件審判請求時に原告も認めていたところである(乙第2号証)。審決は、この要旨認定に基づいて、本件審判の請求は成り立たないと結論しているのであるから、審決に原告主張のような審理不尽は全くない。

原告は、「本願の特許請求の範囲1項の必須要件項について進歩性がないと判断した場合には、2項ないし5項の実施態様項についても順次審判の対象としなければならなかったにもかかわらず、これをしなかった審決は、審理不尽で違法である」旨主張する。

前記のとおり、その発明の要旨を認定するには、発明の構成に欠くことのできない事項である必須要件項により把握すべきであるから、本願発明において、原告が、特許請求の範囲1項に記載された必須要件項を削除し、2項ないし5項の実施態様項を必須要件項に改める補正を行っていない以上、実施態様項は必須要件項とはなり得ず、2項ないし5項の実施態様項に基づいて本願発明の要旨を認定する必要はない。すなわち、2項ないし5項の実施態様項について順次審判の対象とする必要はない。

したがって、この原告の主張は、失当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願明細書の特許請求の範囲1項)、同3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、以下原告の主張について検討する。

1  成立に争いのない甲第2号証(昭和59年2月22日付け特許願)、同第3号証(本件手続補正書)によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載さていることが認められる。

(1)  本願発明は、レーザー光を用いて、情報の記録・再生を行う光学式記録・再生装置に用いられる光学式情報記録担体に関する。(願書添付の明細書2頁16行ないし18行)

(2)  光学式情報記録担体には、ビデオディスク、ディジタルオーディオディスク(コンパクトディスク)などの再生専用ディスク、追記可能な光ディスク、さらには追記、消去、書換え可能な光ディスクもしくは光磁気ディスクなどがある。

これらの製作方法は、信号ないしはガイド溝などが刻み込まれた原盤からスタンパーを作成し、該スタンパーからプラスチック製の複製盤を成形し、記録面、すなわち、信号ないしガイド溝を含む面を有したプラスチック基板を得、各種の機能膜が付けられる。

付けられる機能膜は、再生専用の場合は、プラスチック基板の記録面側にアルミニウムのような反射用金属膜がコーティングされ、追記用の場合には、アルミニウムクローム、鉛、金、ロジウム、亜鉛、銅、アンチモンテルル、インジウム、ビスマス、二硫化炭素-テルル、炭化テルル、砒素テルル、色素薄膜、銀+ポリマーなどが記録媒体としてコーティングされる。さらに、追記、消去、書換え可能の場合は、酸化テルルのように相変換するもの、マンガン-ビスマス、ガドリニウム-コバルト、鉄-テルビウム、鉄-テルビウム-ガドリニウム、鉄-テルビウム-コバルトなどの磁性体膜、また、砒素-セレン-硫黄-ゲルマニウムなどの半導体膜がコーティングされる。通常、該金属の上にさらに反射の目的で金属を、保護の目的で珪素酸化物のような無機物、ないしはアクリル、エポキシなどの高分子系のものをコーティングすることが多い。

一般に、これらの機能膜は、ガラス基板上にスパッタリングあるいは蒸着により形成されるが、ガラスが基板に用いられる理由には、光線透過率が大きい、熱伝導率が高く、熱膨張係数が小さい、吸湿変形が全くない、記録層との密着性がよい、などがあるが、加工しにくく、重く割れ易く、ガイドトラックを設けることが困難であるうえ、量産性に乏しい。

一方、ポリメチルメタアクリレートやポリカーボネートなどのプラスチックは、光線透過率90%程度を有し、射出成形などにより大量でしかも安価な基板を提供することが可能なため、実用上、上記情報記録ディスク基板として望ましいが、これらプラスチック基板は、比較的柔らかく、熱膨張率が大きいうえに、吸湿による変形が比較的大きく、特に、吸湿変形は、光による情報の記録・再生の大きな障害となる。さらに、通気性のために、基板から透過した酸素による記録層の酸化劣化は免れないところである。

こうした欠点を排除するために、従来、基板に有機シランを塗布、あるいは、SiO2などの酸化物をスパッタリングなどで形成していたが、いずれも万全ではなかったすなわち、有機シランなどは、溶剤を用い、浸積あるいはスピンコートした後90℃前後でキュアする必要があるため、プラスチックが変形を起こす。他方、SiO2などの無機酸化物をスパッタリングなどで形成すると、ピンホールの発生を伴い、湿気及び酸素を完全に遮断することは困難であった。(同3頁4行ないし6頁12行)

(3)  本願発明は、上述した従来の問題を解決するために、プラスチック基板をガラス様とし、平滑性、硬度、吸湿変形性、通気性を改良し、基板に基づく機能膜の劣化を防止し、長期的に安定な光学式情報記録担体及び光磁気特性が大幅に向上した光学式情報記録担体を提供することを目的とし、特許請求の範囲1項の構成(本件手続補正書2枚目3行ないし11行))を採用した。(願書添付の明細書6頁14行ないし7頁2行)

(4)  本願発明は、従来アモルファス合金層を安定に形成できなかったプラスチック基板の表面をガラス基板と同じとすることによって、実用可能な光磁気ディスクを作ることができ、従来のガラス基板を用いた光磁気ディスクとほぼ同じC/N比を示すものである。(同12頁14行ないし16行)

実施例1ないし3により得られた光磁気ディスク(ただし、実施例1は本件補正により特許請求の範囲1項の要旨外となっている。)とポリメチルメタアクリレート及びポリカーボネートの基板に公知のTiO2、SiO2をスパッタリング装置を用いて各々第1表に示す層構成で形成した以外は実施例1、2と同じ方法で作った比較例1ないし5により得られた光磁気ディスクの特性とを対比すると、別紙第1表及び別紙図面1第2図に示すとおりである。(同13頁6行ないし15頁末行)

2  そこで、本願発明の要旨について検討するに、本出願に適用される特許法の規定によれば、特許出願において、当該発明の構成に欠くことのできない事項は、必須の要件としてその特許請求の範囲に記載しなければならないのに対し、実施態様項は右必須要件項を実施した態様に関する記載で任意的なものであり、発明の構成に欠くことのできない事項またはその発明の他の実施態様を引用し、これを技術的に特定し、具体化して記載される従属的なものにすぎない。

したがって、1つの発明につき、必須要件項と実施態様項とを特許請求の範囲とする特許登録出願においては、必須要件項と実施態様項はともに審査の対象になるのであるが、特許法29条2項所定の特許要件について審理するにあたって、特許出願に係る発明を同項所定の発明と対比する前提として、その発明の要旨を認定するには、発明の構成に欠くことができない事項である必須要件項によりこれを把握すべきであると解される。

前掲甲第2、第3号証によれば、本願明細書の記載からみて、特許請求の範囲1項が発明の構成に欠くことができない必須要件項に該当し、2項ないし5項は、1項を引用し、同項に記載された光学式情報記録担体を特定し、かつ具体化して付加した同項の実施態様項であると認められる。

以上のとおりであるから、本願発明の要旨を、その特許請求の範囲1項に記載されたとおりのものと認定した審決の判断に、誤りはない。

3  次に、原告主張の個々の取消事由について検討する。

(1)  取消事由1(相違点イ.に対する判断の誤り)について

成立に争いのない甲第4号証(昭和57年特許出願公開第88537号公報)によれば、引用例は、名称を「光ディスク」とする発明であって、この発明においては、用いられるプラスチック基板の材質を限定する記載はないから、少なくとも周知のプラスチック材料からなる基板すべてがその対象となっているものと認めることができる。

また、本出願当時光学式情報記録担体の基板として、ポリカーボネートを含む種々の透明なプラスチックの基板が対象となっていることは周知であることも、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第1号証(昭和56年実用新案登録願第4536号(昭和57年実用新案出願公開第118542号)の願書添付の明細書のマイクロフィルムの写し)によっても、名称を「情報記録媒体」とする考案において、情報記録媒体に使用されるプラスチック基板に関して、「透明プラスチックは、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリチメチルペンテン、ポリプロピレン等の透明プラスチックである。」(明細書3頁12行ないし15行)と記載されていることが認められる。

そして、成立に争いのない甲第5号証(「日経エレクトロニクス」日経マグロウヒル社1982年6月7日発行)には、「ポリカーボネート樹脂の片面盤として登場するコンパクト・ディスク」と題する解説において、「富士通-旭化成-オリンパスのグループの試作機もアクリル樹脂のエア・サンドイッチ構造である。エア・サンドイッチ構造とは、両面張り合わせで、間に空気の層があるもの。この構造では、アクリル樹脂からの水分や、空気層中の水分による記録媒体の劣化、特にはがれが問題になることがある。」(149頁左欄下から8行ないし1行)と記載されていることが認められ、アクリル樹脂の一種であるポリメチルメタアクリレートが基板材料として問題であることは知られていたことが認められる。

たしかに、前掲甲第2号証によれば、本願明細書には基板としてポリメチルメタアクリレート(PMMA)を用いた場合と、ポリカーボネート(PC)を用いた場合の実験データ(別紙第1表)が示されており、このデータによると、実施例1と比較例1ないし3はポリメチルメタアクリレート(PMMA)のディスク基板であるがこれらの吸水変化率は、実施例2及び3のポリカーボネート(PC)のディスク基板の吸水変化率に比して極端に悪く(前者は0.4~0.85重量%、後者は0.02~0.08重量%)、C/N変化率もポリメチルメタアクリレート(PMMA)のディスク基板である比較例1ないし3はポリカーボネート(PC)のディスク基板である実施例2及び3のそれに比して極端に悪い(前者は20~50%、後者は90~100%)ということができる。

しかしながら、前示のように、ポリメチルメタアクリレートが基板材料として問題を含むことは、本出願前既知の事実であったのであり、上記本願明細書の実験データもこれを裏付けているものの、基板材料である種々の透明プラスチックの中からより有利な材料を選択するに際し、問題のあるポリメチルメタアクリレートを除外することに、技術的意義は認められないというべく、審決のこの点の判断に誤りがあるということはできない。

原告は、周知の透明なプラスチック基板から任意のものを選択することができたとしても、選択した基板が実用可能か否かは明らかではないとするが、この点については、本願の特許請求の範囲でも上記ポリメチルメタアクリレートを除外する以外に特定がないのであって、審決の判断に誤りがあるとすることはできない。

また、原告は、特許法36条違反の問題があるのであれば、審判手続で指摘すべきであった旨主張するが、審決はそのようなことを述べているわけではないから、この主張も理由がなく、「ポリメチルメタアクリレートを除く」という定義でよしとするのが先進国における当該分野の通常の審査基準である旨主張するが、法制の異なる諸外国の例をもって、審決を誤りであるとすることもできない。

(2)  取消事由2(相違点ロ.に対する判断の誤り)について

前掲甲第4号証によれば、引用例には、「素子ディスク1、2のプラスチック基板3は気体を透過する性質を持っているため、長期間大気中に保存すると大気中の水蒸気や酸素などの活性気体が内部空間8に浸入し、光記録膜4と反応し、これを変質させ、記録特性に悪影響をおよぼすという不都合があり、初期性能を長期間に亘って安定化させることはできなかった。この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、光記録膜を活性気体が透過しない無機質膜で保護することにより、長期間の保存においても安定した性能を維持することができる光ディスクを提供しようとするものである。」(2頁左上欄10行ないし右上欄3行)、「この無機質膜15、15はレーザビームは透過するが、大気中に存在する水蒸気、酸素などの活性気体が透過しないガラス、SiO2、TiO2、In2O3またはCeO2などの微密な無機質からなり、」(同頁右上欄14行ないし18行)と記載されていることが認められ、活性気体の透過しない無機質膜で光記録層を保護することを目的として、無機質のガラスを用いることが示されている。

そして、無機質のガラスの一種として無アルカリガラス自体が周知であること、引用例記載の発明においても、無機質膜として予定しているガラスの中には、この周知の無アルカリガラスが含まれることは、原告も認めているところであり、そして、この無アルカリガラスは、アルカリ分の与える諸欠点を除去するために作成されたものであることは、自明である。

そうすると、引用例の無機質膜としてのガラス薄膜層に無アルカリガラスを用いることについて、格別の困難性があると認めることはできないから、この点についての審決の判断に誤りがあるとすることはできない。

原告は、「選択することに格別の困難性がない」とするのであれば、審判段階で出願人たる原告に釈明の機会を与えるべきであったと主張するが、成立に争いのない乙第2号証(平成4年6月23日付け手続補正書)、同第3号証(拒絶査定書)によれば、審判手続において拒絶の理由として本件の引用例が示され、本願発明との対比が問題とされていたことが認められるから、この主張は理由がない。

なお、原告は、昭和55年1月1日から平成5年10月1日までの本願発明と類似すると思われる発明との対比から、審決の進歩性の判断を争うけれども、このような検索結果を出しても、これをもって前記認定判断を左右することはできず、この主張も理由がない。

そして、本願発明の奏する作用効果も、前記認定事項に照らし引用例記載の発明が奏すると予測される作用効果と対比して、格別顕著なものであるとは認めるに至らない。

原告は、本願明細書8頁20行ないし9頁2行の「本発明の無機ガラスはこれにのみに限定されるのではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できるものであればよい。」との記載を根拠に、保護層としての無機ガラスはコーニング社のコード番号7059として市販の無アルカリガラスにのみ限定されるものではなく、物理蒸着法で薄膜が形成できる無アルカリガラスであればよいことが開示されていると主張するが、上記明細書の記載を、原告の主張に沿って物理蒸着法で薄膜が形成できる無アルカリガラスでよいと解するとしても、形成される無アルカリガラスが引用例の無機質膜として予定しているガラスの中に含まれること自体は原告の争わないところであるから、原告の主張は理由がない。

(3)  取消事由3(審理不尽の違法)について

前示2項認定のように、審決において特許出願に係る発明の要旨を認定するには、発明の構成に欠くことができない事項である必須要件項により把握することができ、必須要件項に進歩性がないと判断した場合に実施態様項を判断の対象とする必要はないというべきである。

したがって、本願発明において、その必須要件項である特許請求の範囲1項に基づいてその要旨を認定し、これに基づいて拒絶理由の有無を判断した審決の判断に違法はなく、原告の主張は採用することができない。

原告は、多項制に関する「運用基準」における記載を引用するところ、成立に争いのない甲第7号証(「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」特許庁・弁理士会昭和50年10月発行)には、原告が主張する如き記載があることは認められるものの、右記載内容は上記認定を覆すものではない。

また、原告は、本願の特許請求の範囲1項の必須要件項に2項の実施態様項を加えた発明が、対応する欧州特許出願及び米国特許出願で特許・登録されているという事実及び日本で当該分野の類似発明が多数公告されているという事実は、本願の特許請求の範囲1項の必須要件項に2項ないし5項の実施態様項を加えた発明は、特許性のある発明であるということを示している旨主張するが、前記認定判断に照らし、このことが審判手続における審理不尽と何らかの関連を有するとすることはできない。

4  以上のとおり、原告が審決の取消事由として主張する点について、いずれも理由がない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙図面1

<省略>

第1表

サンプル記号 光デイスクの層構成 外面保護層 基板 中間保護層 記録媒体 表面保護層 光線透過率(%) 鉛筆硬度 密着性 吸水変化率(重量%) C/N変化率(%)

A 実施例1 - PMMA ガラス Am ガラス 89 6H ◎ 0.4 87

B 比較例1 - PMMA - Am TiO292 5H △ 0.85 20

C 〃 2 - PMMA TiO2Am TiO290 5H △ 0.55 50

D 〃 3 - PMMA SiO2Am SiO290 5H △ 0.45 50

E 実施例2 - PC ガラス Am ガラス 89 6H ◎ 0.08 90

F 〃 3 ガラス PC ガラス Am ガラス 88 6H ◎ 0.02 100

G プランク - PC - - - 90 HB - 2.5 -

H 比較例4 - PC TiO2Am TiO289 5H △ 0.25 70

I 〃 5 - PC SiO2Am SiO289 5H △ 0.20 70

(注) 層構成の欄: ガラス=コーニング社コードNO.7059の無アルカリガラス

PMMA=ポリメチルメタクリレート

PC=ポリカーボーネート

Am=アモルフアス合金(Gdua2Tnoa2Fe0.75)

2.鉛筆硬度:基板または保護層の硬度

3.密着性:保護層の10×10cmの面積部分をカツターで を付けて100の部分に分け、その上に接着テープ(ニツトーテープ#29)を付け、剥離後の残留単位区画(1cm)の数より算出。◎密着性大、△密着性中

4.吸水変化率:45℃、90RH%の条件下ての30日経過後の重量増加 。

5.C/N変化率:初期値を100とした場合の45℃、90RH%の条件下での30日経過後のC/N比の相対値。

別紙図面2

<省略>

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